第22回 老い支度を考える―ゆるやかな連絡会 「弁護士が語る『後見制度とは~初級編』」

2017年にスタートした『老い支度を考える−ゆるやかな連絡会』では、さまざまなテーマの勉強会やセミナーを継続して開催しています。2019年7月6日には、生活クラブ東京の組合員を対象に「高齢者・障がい者のための法律相談」で連携している第二東京弁護士会の弁護士の土肥勇さんと齋喜隆宏さんに「後見制度」と「家族信託」について解説していただいた内容を簡単にレポートします。

 

 

土肥勇 さん

 


目次

 

後見制度には、2つのパターンがある

 

認知症などで判断能力が失われると、さまざまな支障が出てきます。例えば、財産管理、施設入所の契約手続き、不動産登記などの手続き、保険金の請求……など。

「後見制度」は、判断能力が衰えてきた人が不利益を被らないように、そうした業務を「後見人」に託す制度です。

 

この「後見制度」には、大きくわけて2つのパターンがあります。

本人が元気なうちに後見人を決めておく「任意後見制度」と判断能力に衰えが出てきた段階で親族などが申立てをして家庭裁判所が後見人を選出する「法定後見制度」です。

1つめの「任意後見制度」は、本人が元気なうちに「誰に託すか」を公証役場で決めておくものです。家族などが後見人となるケースと、弁護士などの専門家が後見人になるケースがあります。家族がいなかったり遠方に住んでいたりする場合は、元気なうちから定期的な訪問や見守り、賃貸物件の管理や保険料・税金の支払いなどの財産管理も後見人に依頼することもできます。実際に判断能力が低下したときに医師に診断書を書いてもらい、家庭裁判所に申立てをして「後見」が始まります。

 

一方、「法定後見制度」は、民法の定めに沿って後見人が決められます。申立てできるのは、本人、配偶者、4親等内の親族(子、兄弟姉妹、甥姪など)、あるいは身寄りがなかったり遠方で来られなかったりする場合は自治体の首長などもできます。

 

判断力が失われていることを示す医師の診断書などの書類を付けて家庭裁判所に申立てすると、親族か専門職が後見人として選任され、財産管理などさまざまな業務を担うことになります。判断能力のレベルに応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの支援から適した制度が選ばれます。

 

 

 

後見人が担うことは?

 

後見人が担うことは、大きくわけて2つあります。

1つめは、日常業務。いわゆる生活環境の整備などの「身上監護」と「財産管理」です。例えば、ケアマネージャーとのやりとり、入所施設の検討、施設費用などの支払い、税金申告、賃貸物件の管理などです。

 

2つめは、家庭裁判所への年1回の定期報告です。後見等事務報告書に、財産目録・通帳などの写しを添えて家庭裁判所に提出します。

こうした後見人としての業務を弁護士などの専門職に依頼する場合は、「後見人報酬」がかかります。報酬の基準額は、資産額によって定められています。親族が後見人になる場合では報酬はかかりませんが、後見人が報酬を求めることも可能です。

 

制度上、後見の業務は「本人の判断能力が戻るまで」とされていますが、被後見人の死亡まで続くことがほとんどです。「後見人制度」はスタートしたら、最後までやめられないことも覚えておきましょう。

 

死後の相続手続きは、相続人が行うのが原則ですが、相続人がいない場合は、葬儀などを後見人が行うこともあります。その場合、葬儀・施設費用などの清算や財産分配に至るまでを含め、死後事務委任契約や遺言によって後見人に委任しておくことが必要です。

 

 

相続対策もできるのが、家族信託

 

 

齋喜隆宏 さん

 

「家族信託」は、信頼できる家族に相続や遺言も含めて任せることができる制度です。「後見制度」よりも複雑で難しいですが、利用は増えています。

この制度の特徴は、財産を守りながら、本人や家族のために財産を活用できることです。例えば、認知症になって判断できなくなっても、自宅や賃貸物件の建て替えなどの資産運用が可能になります。

 

また、元気なうちから財産管理を任せながら、相続対策・税金対策ができたり、財産分配まで決めておけるのも「家族信託」のメリットです。

ただし「家族信託」は、基本的に財産管理を目的とした制度なので、いわゆる生活環境の整備などの「身上監護」までの後見は含まれません。また、親族がいないと利用できないので注意が必要です。

 

後見制度は2000年に介護保険制度とセットで導入されました。介護保険を利用するには契約が必要で、判断能力が不十分な人の権利を保護するための制度と言われています。介護保険は身近な制度ですが、後見制度はしくみの複雑さや利用のための費用などからなかなか浸透していないようです。今回の内容を手掛かりに、自分や家族の状況に合わせて何が適しているのかじっくり考え、手遅れになる前に対処しておきたいものです。

 

自治体や福祉協議会などで開いている説明会に参加してみるのも良さそうです。相談を受け付けているところを探し、個別の事情も踏まえてじっくり問い合わせするのも良いでしょう。今後、制度が変わっていくこともありそうなので、常にアンテナを張っておくことも心がけたいです。

 

セミナーに参加された方からは、こんな感想をいただきました。

・勉強になりましたが、実際、使うようになるのか???

・よかったけど、難しかった!

・いろいろなオプションがあることがわかった。

・早めの準備で、不必要な不安が減るのではないかと思いました。

・家族間での話し合いが大切だと思いました。

・まだよくわかりませんが、少しずつ勉強します。

・なんとなく仕組みがわかりました。

・複雑ですが、いろいろな方法があるとわかり参考になりました。

 

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