音楽とダンスで地域を元気に!大沢地区のチャレンジ

大沢地区は酒田市の中心部から山に向かって車で20分ほど走ったところにある、山間の小さな地域。一見ごくありふれた山間の村だが、地形・地質資源が豊富で「ブラタモリ」的に地層を見るにはとてもいい。日本がどうできたか、何万年というスケールで、山が隆起し、川が山を削って今の大地ができた証拠があちこちで観察できる。
だが、地域の一番の魅力は、なんといっても地域の人たち。おしゃれなレストランや店はなくても、暖かい家庭料理でもてなしてくれる元気なお母さんたちがいる。そんな地域の魅力を引きだし、音楽やダンスで盛り上げようとがんばる人たちがいる。

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芋煮ダンスで地域を盛り上げる

地域の魅力を伝える様々なイベントを企画し、発信している仕掛け人は、地域おこし協力隊の阿部彩人さんだ。酒田市で生れた阿部さんは東京に憧れて上京し、大学卒業後はエンタメ業界で活躍していたそうだ。2018年4月にUターンし、5月に大沢地区の地域おこし協力隊員として赴任してからは、得意の音楽やダンスを使い、地域の人を巻き込んでPRの動画やドラマを撮影して、積極的に発信している。

方言を使って地域おこしをしようというのも阿部さんの取組みのひとつだ。この日も私たち生活クラブの参加者に「来てくださってもっけです(ありがたいです)」と庄内弁であいさつ。大学の同期に「庄内弁ってかっこいいよね」と言われたことがきっかけで作った庄内弁のドラマ「んめちゃ!」は、YouTubeで配信され、15万回も再生されている。

芋煮の魅力を伝えるダンスもある。酒田だけでなく東京でも披露してきたそうだ。

若い世代を皆で支える

大沢地区のさまざまな取り組みも、阿部さん一人ではできなかったはず。この地域には、若者のチャレンジをみんなで支え、一緒に作っていこうという助け合いの精神がある。阿部さんいわく、「近所のおばあちゃんからのいただきもので食費はゼロ」だとか。阿部さんが作るダンスやドラマの動画に出演しているのも、もちろん、地元のみなさんだ。

みんなで若い世代を支え、子どもたちを育てて行こうとする大沢地区ならではの、もうひとつの取組みが、子どもたちの太鼓祭りだ。もとはといえば、平成5年、大沢小学校5年の担任の先生がクラスの子どもたちに樽をたたいて指導したのがきっかけだという。それを聞いた町の人たちがお金を集めて太鼓を寄付し、今では毎年10月の三連休にお祭りをやるまでに育った。

どの地域でも古くから伝わる伝統的な行事をどう継承するかに汲々としているなか、大沢地区では、地域の人が子どもたちのためにお金を出し合って、新しいお祭りを作ってしまったのだ。

高級レストランより美味しい手作りのごちそう

夕ごはんは大沢のコミュニティセンターで心づくしの家庭料理をいただいた。

お米はもちろん山形産の「ひとめぼれ」。「私にひとめぼれしないでくださいよ」なんて冗談交じりに、料理上手のお母さんたちがひとつひとつのメニューを説明してくれる。

銀がれいのから揚げ、旬の茄子の揚げ出し、ぜんまいの煮つけ、きゃらぶき。郷土料理の「もうそう汁」はたっぷりの筍と豚肉、椎茸が入った味噌仕立て。この地方で春にたくさん採れる孟宗竹の筍を瓶詰にしたものを使っている。旬の季節に生で作るともっとおいしいそうだ。紫蘇巻きは「慰み」(=箸休め?)としてちょっと甘めの味付けにしているそうだが、炊き立てご飯にももちろんよくあう。野菜サラダのきゅうりは近くの畑で採れたもの、漬物は名人と呼ばれるお母さんが作ってくれた茄子のビール漬け。

心がこもった手作りの味はどれもなつかしくしみじみ美味しい。どんな高級レストランより勝る本当の贅沢だ。

「子どもたちよ、大きく育て!」

もうひとつ、子どもたちのために何かしてあげたいというこの地域の暖かい思いの象徴となっているのが、コミュセンのすぐ目の前の山の斜面に描かれた「大」の文字だ。

2004年、大沢小学校(2009年に閉校して八幡小学校に統合)の門の向かいの山に、とつぜん現れた「大」の文字。子どもたちに「大きく」育ってほしいと願いを込めて、山の持ち主のお父さんが一人で草刈りをして描いたものだった。その方が2012年に亡くなった後も、地域の人がひきついで年に3回草刈りをして守ってきた。そして、2018年夏には、協力隊の阿部さんの発案で、LEDのソーラーライト26灯を使ってライトアップ。昨年8月には第1回「大沢『大』文字まづり」も開かれ、地区内外の200人の人が集まって、ライトアップされた「大」の文字を眺めながらライブやトークショーを楽しんだという。今年も私たちが訪問した半月後、さらにパワーアップした第2回「大沢『大』文字まづり」が開催された。

地域の未来を照らす大文字の光

そんなこれまでの取組みの話を聞きながら夕飯をいただいているうち、日が暮れてきた。大文字に光が灯る時間だ。皆で外に出て涼みながら山を眺めていると、あたりが暗くなるにつれて、山の中腹にひとつ、またひとつと明かりが灯っていく。LEDの照明が感知して暗くなると自動的にスイッチが入る仕組みだ。ある程度暗くなった瞬間にぱぱぱっといっせいにつくと思っていたが、実際はすべての明かりが灯るまで、10分くらいかかっただろうか。

灯った明かりはつながって「大」の文字が次第に浮かび上がる。ひとつ、またひとつ。その様子はまるで、一人一人が力をあわせて明るく照らして行こうとしている、大沢地区の明るい未来を象徴しているようだった。

(※本稿は2019年8月上旬に実施された取材をもとに作成されました。)


取材者プロフィール

ペンネーム:野菜畑のモンシロチョウ
所属単協名:東京・目黒
プロフィール:何年か前に訪ねた有機農家さんの畑で、キャベツやレタスの上をモンシロチョウが群れ飛ぶ美しい光景に魅せられ、それ以来、有機農業にはまっています。

今はときどき援農に行くくらいしかできないけれど、あのときの蝶のように畑をあちこち飛び回って、有機農業の魅力を伝えたいなと思っています。

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