高齢者の暮らしを支える地域包括支援センター

地域包括支援センターとは、介護保険法改正により各市町村に設置が義務づけられ事業所で、高齢者が住みなれた地域で安心して生活が継続できるよう、福祉・保健・介護の総合的な窓口という役割を担っています。
日常生活圏域ごとに設置されることが望ましいとされ、概ね中学校区に一つ設置されることを目標としています。

ここ酒田市内には10箇所の地域包括支援センターが設置されており、これは全国で見ても、かなり密度の濃い設置数です。
なぜこれだけの数の地域包括支援センターがあるのか、実際に酒田市の「地域包括支援センターはくちょう」をお伺いして、管理責任者で生活支援コーディネーターも兼ねている阿部貴志さんにお話を聞いてきました。

目次

地域を支えるコミュニティ振興会

―なぜ、これほどまでに地域包括支援センターが多いのですか?

阿部氏:酒田市にこれだけの数の地域包括支援センターがある理由は、酒田市でも市街地や住宅地という地域によって地域課題の質に違いがあるので、きめ細やかな対応をするには多い方がいいとうことで10か所の設置となっています。

―雪国での高齢者の暮らしはたいへんではないですか?

阿部氏:酒田市は豪雪地帯ではないのですが、雪が生活道路に積り、高齢者の移動を難渋させることが度々あります。そこで活躍するのが民生委員や地域の住民組織の人々で、自宅敷地内から生活道路までの除雪を手伝ってくれます。山沿いの地区では、買い物がしにくくなった方の買い物代行や医療機関の送り迎えはご近所さんが行なってくれることも日常の風景になっています。地域を支える住民組織の会長さんたちも「地域でなんとなしなくては」「地域は家族だ」という思いをもって、この町に、ここに暮らす人々をどうやって守っていこうかと腐心されています。

―高齢者の暮らしのうえでの困りごとはどうやってつかむのですか?

阿部氏:酒田市は小学校区ごとにコミュニティセンターがあり、そこがあらゆる相談の拠点、活動の拠点になっていますので、そこに行けば地域の情報がわかるようになっています。そのうえ、そこには地域のあらゆる課題の解決に取り組むコミュニティ振興会という組織が一つずつあります。酒田市の特長は、こうした組織と民生委員、地域包括支援センター相互の関りが多く、それぞれが顔見知りになり、地域課題や地域の困りごと情報を共有し、必要があれば、すぐにでも動き出すことができるようになっています。

―酒田市ならではの特長は他にありますか?

阿部氏:平成24年からは、国が地域包括支援センターに配置しなさいとしている保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員に加え、酒田市は独自に「地域コーディネーター」を、それぞれの地域包括支援センターに配置しています。地域コーディネーターの役割は担当する地域課題の掘り起しや、地域に住民の居場所づくりを先頭にたってすすめることです。

実は、この地域コーディネーターは、2015年の介護保険制度改正で2018年4月までに市町村の配置が義務付けされた、高齢者とボランティアなどの地域資源をマッチングし、生活支援を充実させる役割を担う「生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員)」を先取りする形で設置されたものでした。阿部さんは、この配置構想が、地域福祉計画を策定するなかで、地域のコーディネートをする人員の配置が必要という声を受けて、酒田市が設置したものだと語ってくれました。

地域に出番と役割がある高齢者の暮らし

―高齢になってから酒田市に移住される方は多いのでしょうか?

この質問には、インタビューに同席された酒田市地域創生部地域共生課の移住定住係長の五十嵐さんが答えてくださいました。
「実は、65歳を過ぎて酒田市に転入される方は年間100名以上います。IターンやUターン、Jターンの方まで様々ですが、相談事があれば、酒田市地域共生課の移住相談総合窓口が対応しています」とのことでした。さらに、移住した高齢者は、地域に新たな役割を作りにくいのではないでしょうかと問うと、五十嵐さんは「地域に多くの役割がありますし、コミュニティ振興会の面々が地域の集まりに誘ってくれます」とのこと。

―地域の集まりはどのくらいあるのですか?

この質問には、酒田市の介護保険課の佐藤慶子さんが「地域の集まりの一つとして市内のコミュニティ振興会が主体となって週1回運営する「通いの場」があります。ある地域では軽体操の他に、歌声喫茶やフォークダンス、ゲームなどが週替わりで提供されています。当然、参加する人は地域の人ですが、軽体操のリーダーも歌声喫茶の楽器奏者も地域の人で、それぞれが特技を活かし、そこを自らの活動の場としても活躍されています」と教えてくれました。

そのうえ、市民が主体的に開催する「いきいき百歳体操」は市内83か所もあり、その他、サロン、茶話会等は市が把握しているだけで34か所もあるといいます。国は高齢者人口の10%が、こうした「通いの場」等の活動に参加することを目標にしているので、その目標を酒田市に当てはめてみると約3,500人が目標参加者数となりますが、現在、さまざまな場で体操等の活動を続ける高齢者数は約1,700名。目標値の半分でありますが、まだまだ増える勢いがあるように感じます。

三十六人衆が作った進取の気風と、自治の精神が高齢社会を支えている

酒田の創始者といわれる「徳尼公」は、奥州藤原家・藤原秀衡の妹とされた人物で、源頼朝の武力が奥州に及び、藤原氏が没落すると、36人の家来に守られ、平泉から酒田に落ちのび、ここで尼となって生涯を過ごしたとされています。その後、36人の部下たちは船問屋等を営み、地侍として町割りを整え、「町組」という自治組織を作り、この地の繁栄の基礎を作ったそうです。

酒田の人々は、彼らのことを「三十六人衆」と呼び、彼らによって「自衛自治」の精神が築かれたと考えています。こう長々と酒田の歴史を、部外者の私が話し、もしかしたら、この三十六人衆の思いが時空を超えて、この酒田市に生きているのじゃないですかと聞いてみると、五十嵐さんは、「地域は家族だ」と言って、地域で互いに支え合いながら暮らす皆さんを見ると、そこには三十六人衆が築いた自治が未だに息づいているように思えるかもしれませんね、でも、あまり意識したことはなかったですね」というお話が返ってきました。
とはいえ、この地域に暮らし、この地域のことをうかがっているうちに、今からでも遅くない。酒田市で高齢者の方々を応援する役割を担い、元気な人もそうでない人も、共に暮らせる町にする活動を、地域包括支援センターの方々と一緒にすすめるのも悪くはないと思えてきたのが正直な感想でした。

(※本稿は2018年10月中旬に実施された取材をもとに作成されました。)


取材者プロフィール

ペンネーム:大仏ちゃん
所属単協名:千葉・松戸
プロフィール:現在66歳。市役所を60歳で定年退職してから大学教員へ。

その後、65歳の二度目の定年を機に大学院で健康寿命の延伸にかかわる要因とは何か? という研究を行なっています。

今のところ、そのカギは「経済活動」が最も重要な要因ではないかとにらんでいます。

  • URLをコピーしました!
目次