土門拳記念館で仏像と会話する

皆さんこんにちは、多摩きた生活クラブ組合員のペンネーム「そよかぜのポン」です。前回の平田牧場のレポートに続き、酒田市の魅力を皆さんにお伝えしたいと思います。

実は私には平田牧場とは別に、酒田市に行ったら行ってみたい所がありました。それが「土門拳記念館」です。私は特に写真に興味があるわけではないのですが、数年前、ひょんなことから鳥取にある「植田正治写真記念館」を訪ねたことがあるのです。家族を写した写真に吸い込まれるように、雑念を忘れて作品に見入っていた記憶があります。そんな折に、酒田市に「土門拳記念館」があることを知り、ぜひ訪ねてみたいと思いました。

土門拳は1909年山形県酒田町(現酒田市)生まれ、80歳で亡くなるまで写真家として報道、人物、風景、寺院、仏像などを撮影しました。写真集は「筑豊のこどもたち」「ヒロシマ」「古寺巡礼」他多くのものがあり、日本を代表する写真家の一人です。

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記念館のたたずまい

最上川にかかる出羽大橋を渡り、飯森公園の奥まったところに「土門拳記念館」はありました。私の中で写真や映像でみる土門拳は人間臭く、ドロドロしているというイメージがありました。そんな先入観とは裏腹に、鳥海山を望む池のほとりに佇む建物の外観はとてもモダンで、清潔な印象を受けました。池には白鳥が優雅に泳いでおり、まるで「ゆっくり見ていきなさい」と私に話しかけているようでした。

館内では『酒田山王祭り』『古寺巡礼』『室生寺』などの作品が公開されていました。入ってすぐに目を引いたのは筆で書かれた『古寺巡礼』の書。なんでも土門拳は晩年、脳出血で右手が不自由になり、なんとか動く左手によって書かれたものなんだそうです!土門拳の力強さ、不屈の精神にいきなり圧倒されました。

作品の前で

大きな額に収められて展示されている作品は、前に立つ私にスゴイ迫力で迫ってきて、思わずたじろぎます。そんな迫力のある写真を眺めて歩いていると「室生寺五重塔」・・・「室生寺金堂十二神将立像」の前でピタッと足が止まりました。写真の中の像の顔は、左手で頬杖ついて宙を見ているのです。唇を結び、輝きのある眼は優しく怖くはありません。

「おじいさん、イヤ仏様、何を考えていらっしゃるのですか? 何を見てらっしゃるのですか?」

「う~ん、ボ~としているのだよ。頑張らなくていい時もあるんだよ、ありのままで。ただボンヤリしていてごらん、何か見えてくるかもしれないよ」

私は写真の仏様とそんな会話をした気がして、優しく包まれた気分になったのでした。

最後に目を惹きつけられた『酒田山王祭り』に映し出されている子どもたちは、夜店に目を輝かせ、人通りが多いのが嬉しかった幼き日の私でもありました。

また来たい

様々な写真に引き込まれ見入っているうちに、入館者が少し増えてきました。周りを見渡すと皆思い思いの作品の前で足を止めています。窓からじ~っと外を眺めている人もいます。

記念館を出ると、池の白鳥に「またいらっしゃい」と言われているようでした。私は水たまりを避けるように歩きながら、今回体験した強烈な印象の余韻に浸っていました。土門拳の写真には、何度でも来たいと思わせる確かな迫力があります。機会があったらまた来たいと思いましたが、その時いったい私は今日とは違うどんな思いを感じるのでしょうか。

(※本稿は2018年4月上旬に実施された取材をもとに作成されました。)

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