生活クラブらしさ満載の参加型福祉コミュニティーづくり

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特派員レポート

地域のつながりを支える「つるかめ食堂」

 

人は何かの役に立つために生まれてくるのではない。役に立とうが立つまいが、その存在そのものが肯定される社会でなければいけない。障害者は不幸しか作らないとか、生産性だとかではないはず。

 

そう話すのは酒田市で『つるかめ食堂』を運営する本慶寺(真宗大谷派)住職の本多芳雄さんご夫妻。

 

今回の庄内の取材に参加が決まり、18歳まで酒田市で過ごした私は、この40年あまりの歳月がどのように酒田市の人々のつながりを変え、今どのように人々はつながっているのか知りたいと思いました。そんな時に酒田市を調べていて見つけたつるかめ食堂。なんでも、1人で食事をする『孤食』に歯止めをかけようと、定期的に開かれている地域住民の会食の取り組みなのだそうです。

 

今回、インタビューを通してその答えを見つけることができればとの思いで本慶寺を訪問しました。

 

酒田市の中心市街地から少し入った閑静な住宅街に本慶寺はありました。
参道の門をくぐるとき、ふと掲示板に目が止まりました。そこには「人は何かの役に立つために生まれてくるのではない」と書かれた紙が貼ってありました。
本堂の横の玄関で出迎えてくれたのは、穏やかな柔らかい眼差しのご主人芳雄さんと、まるで少女のように目をキラキラ輝かせた奥さんの元子さんでした。

 

一緒にご飯を食べませんか?

 

 

『つるかめ食堂』は2017年1月にオープンしました。2016年秋の試食会では10名ほどの参加だったにもかかわらず、オープンの時にはいきなり約50名が集まって、それは予想外な人数だったそうです。それ以降も各回の参加者数は50名を超えるときもあるほど、たくさんの人が足を運んできています。大きなPRもせず、ただひとこと「一緒にご飯を食べませんか」と声かけして毎月1度開催しているのだそうです。

 

『つるかめ食堂』立ち上げへの思い

 

 

『つるかめ』というネーミングは、真宗大谷派の燭台の形状に由来していました。亀の上に鶴が立ちその嘴で蓮の花をくわえている大変美しい燭台です。
本多ご夫妻は、以前から地域でさまざまな活動に取り組んでいます。引きこもりのご家族を支援する『春風の会』、『読み聞かせの会』、そして自主映画の上映実行委員などです。

 

― 元子さんは、なぜ食堂を始めようと思ったのですか。

 

元子さん:私ね、寺に嫁に来る前から、お寺は文化の中心だろうと言われていて、嫁に来てからも心の何処かに、なんかやりたいなぁという思いがずっとあったの。だから『春風の会』や『読み聞かせの会』などにずっと参加していました。でも直接的なきっかけは映画だったかもしれない。『きみはいい子』という映画で、それは2016年のこと。

 

元子さんはその時を振り返ってくれました。

 

『きみはいい子』は、子どもの虐待を描いた映画です。上映実行委員として携わった上映会は、2016年7月に好評のうちに終わりましたが、心のなかで「このまま終わっちゃっていいのだろうか」という思いが芽生えたそうです。映画の主人公は若い先生。最初は教育熱心な先生ではなかったけど、最後に子どもを守らなければいけないという思いに駆られて走り出すシーンでその映画の幕は閉じます。

 

 

元子さん:そのシーンに触発されて、私たちも何かやらなければと思ったの。でもその何かはまだはっきりと見えず、とりあえず反省会と称して流しそうめんをやることにしました。そのギャップが面白いでしょ。その流しそうめんを食べながら「食べるのっていい。あったかいつながり。こんなふうに一緒に食べるっていうのがいいんだね!」という思いが芽生えてきて、「仲間たちと共有できて、こんなのいいなぁ、こんなのやりたいなぁ。」という思いがつるかめ食堂につながったの。そして寺だったら、場所もあるしお皿やお鍋もあるしね。」

 

そのような経緯で「つるかめ食堂は」スタートしたのでした。

 

- 春風の会で支援しているひきこもりの人たちへの思いはありましたか。

 

 

本多夫妻:ひきこもりの当事者の居場所になったらいいなぁって思っています。まだ目標は実現はしていないけれど、お母さんたちが調理スタッフとして手伝ってくれています。

 

引きこもりのご家族の方々が気軽におしゃべりができる所があればいいなと。それと引きこもりの人たちは事件を起こす予備軍とみられがち。そういう偏見を無くしたくて出張講座もやっていました。一番つらいのは本人だけど、家族もつらさを抱えています。家族ごと社会から引きこもらないようにしたかったんです。

 

本多さんご夫妻はひきこもりの親たちを支えたい、その居場所をつくりたいとの思いで「春風の会」を続けています。元子さんは「大したことはしていないの。ただここでお茶を飲んでいるだけ」と。でも、なんでもない話ができる場所、安心して話ができる場所があるのはとても大切なことだと思います。

 

ずっと大切にしていきたい、出会いや思い

 

 

- 食堂の運営で困ったことはありましたか。

 

本多夫妻:そんなことはねがったの~(ありませんでしたね)。食堂に集う人が、食材を持ってきてくれるの。春はどっさりの山菜、夏はきゅうり、トマトやナスなど。ときにはアスパラガスも!毎回新鮮な卵を30個持ってきてくれる人もいますよ。卵といってもそれは食肉用に解体した鶏から取り出した未成熟卵の『キンカン』。殻が薄いからゆで卵にはできないし、一つずつ丁寧に洗ってから卵料理に使っているんです。

 

- どんな出会いがありましたか。

 

本多夫妻:食堂の運営に欠かせないスタッフとの出会いもありましたね。その方は『読み聞かせの会』で出会った栄養士さんなんです。それからは市販のだしやコンソメを使わずに、昆布から出汁をとるようになりました。それがとてもやさしい味。においも違う。丁寧にだしを取るとこんなに優しい味になることを知ったの。減塩でもあるし高齢者にも喜ばれています。

 

本多さんご夫妻は、その出会いがなければこの食堂は実現できなかったと言います。

 

ここには3歳〜80代までと世代を超えて人たちが集まってくれるそうです。30代の親からは、2~3歳くらいの子どもを安心して連れていける食堂がないと聞きました。しかしここでは、食べ終わると、子どもたちは寝っ転がったり、「タンケーン!」と言って堂内を走り回ります。親たちは目の端で子どもたちの姿を追いながら安心しておしゃべりができるのです。

 

 

そして「よねさん」という紙芝居屋さんが毎回来てくれて、小さい子も高齢者もみんなで一緒に紙芝居を見るのがお決まりだそう。紙芝居は手作り、前回はリアルな「地獄」がテーマでした。

 

「おっかねさげ、おれ見ねー(怖いからボク見ない)」という子どももいました。だけど、ご主人は「地獄っていうものを知らないと、おちゃらけたものかそうでないかがわからなくなるもの」と、時にはしっかり伝えることも必要だとおっしゃっていました。

 

本多夫妻:夏休みには東京の田園調布から中学生のグループが来て、市民がホストを引き受けています。彼らは山に行ったり、海に行ったり、田んぼで農作業を手伝ったりして、一週間酒田での夏を過ごします。そしてつるかめ食堂では、皿洗いをしてくれました。知的なハンディキャップを持つ子どもたちが作った品物を並べて小さなお店を出したこともありました。また、教育委員会や市役所のひとたちも来てくれています。こうして人の輪が確かに広がって顔見知りが増えていくのは嬉しいことなんです。

 

でも一番のキーワードは食べ物だと思うの。何より美味しいものがいい。旬のものをたくさん食べて、使い切れなくてお土産にどうぞって言ってくださいます。

 

この酒田市には、一歩踏み出すだけで、助けてくれる人がたくさんいたのでした。

 

全ての人々をつなぐきっかけを作る

 

 

- これから大切にしていきたいことは。

 

本多夫妻:月1回だけ?と言われることがありますよ。でも私たちは月1回が限度。本当は夜がいいと思うのだけど、お年寄りのことなど考えて昼にしました。私たちは夜にはできないけれど、他のだれかが曜日を変えて夜にやってくれたらいいなぁと思っています。

りっぱなことはできないの。でも子どもが「プレートのご飯、全部食べたー」とか「こんなの、どうやってつぐんなや(どう作るの)」などの声を聞くとこれからもこの場所を大切にしていきたいと思うんです。

人と人の暖かいつながりを大事にしたい、できるだけ楽しくゆっくりしていってもらえたらいいという思いで、毎回心をつくして準備している様子が伝わってきます。

 

- 最後に、つるかめ食堂から発信したい思いはなんですか。

 

本多夫妻:参道の門の掲示板に貼っている「人は何かの役に立つために生まれてくるのではない」という言葉は、愛知県の暁学園という養護施設の園長だった祖父江文宏さんの言葉です。役に立とうが立つまいが、その存在そのものが肯定される社会でなければいけないと思います。障害者は不幸しか作らないとか、生産性だとかなんだとかではないはず。そんな思いがすべて『つるかめ食堂』にはつながっているんです。

 

お二人は力強く話してくれました。

 

― インタビューを終えて

 

私自身の問いへの答えを見つけることができたように思いました。

 

『他人事』と無関心でいられない地域性、何かを生み出そうとする力、そして簡単に折れないしなやかさ、これが酒田の人たちの持ち味だし、私の中にも息づいていた思いだと気づきました。

 

小さな試みの一つではあるけれど、この『つるかめ食堂』が地域の芯となって、今の希薄なつながりの時代に、少しずつそして確かに人と人がつながるという手応えを生み出してくれることを大いに期待したいと思います。

 

 

(※本稿は2018年7月下旬に実施された取材をもとに作成されました。)

 


 

取材者プロフィール

 

 

ペンネーム:麦
所属単協名:千葉・佐倉
プロフィール:現在61歳!50歳を越えて福祉の世界に。まだできることがたくさんあったと気づき、少しずつ行動につなげています。酒田市は私の故郷です。帰省するたびに「いいところだなぁ」との思いが深くなっているのは、歳のせい?