生活クラブらしさ満載の参加型福祉コミュニティーづくり

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特派員レポート

最高の笑顔の見つけ方 ~家族をつなぐ未来創造館での実家づくり~

 

2019年夏、偶然、酒田で出会った笑顔。素敵だった。どうすれば、こんな最高の笑顔になれるのだろう。今回はその素敵な笑顔の若林良子さん(77歳)に、笑顔のわけを聞きに、お住まいの未来創造館に足を運んだ。

 

―その笑顔の訳を教えてください。

若林さん:ここでの生活に満足しているからでしょうね。ここでは食事の献立などを考えてなくていいからですね。それと自然がいいということも。とにかく毎日が楽しみです。

 

71歳のときに40年以上暮らした東京・羽村市から、夫婦二人で酒田に来ました。羽村で生まれた娘が母になり、府中で暮らしはじめ、娘の子育てを毎日、手伝っていました。孫の面倒をみることは、すごく忙しいことですが、孫を育てることは楽しく、苦にはなっていませんでした。でも、娘が転勤することになったので、私の役割は終了です。

 

もう、東京にいる理由はなくなったんです。私は子どもを育てることがいちばんの仕事だったので、孫の面倒をみることが生き甲斐だったんですが、それがなくなるということが転機になって、次の暮らしの場所を考えるようになったのです。

 

もし、酒田に来ないで羽村の暮らしを続けていれば、夫の世話に追われ、友だちとも疎遠になっていたかもしれません。お友だちと旅行にいくこともできなかったでしょうね。でも、未来創造館の暮らしでは、東京のお友だちとの関係は昔のままです。毎月のように、東京の友だちに会いに行きますし、泊まってくることだってあります。そうしたことが、ここの暮らしではできるんです。それが可能になるのです。夫は私が東京にいてもここで安心して暮らせますしね。

 

いちばん楽しいことは仕事ですね、今は充実しています

 

 

―どのようなお仕事をされているのですか。

若林さん:ここのデイサービスのお手伝いをしています。毎日、デイサービスのアクティビティを中心にかかわっています。

月曜日はスポーツ民謡、火曜日はカラオケと社交ダンス、そしてエンジョイイングリッシュ、水曜日はコーラスで、木曜日が外出です。英語は昔、塾で教えていたので、今もエンジョイイングリッシュは講師をしています。社交ダンスは、自分でもできなくてはいけないと思い、酒田市内の社交ダンスの教室でレッスンを受けています。

 

ここに来て、昔、羽村で学んだことが役に立っていると実感します。いちばんそれがよかったですね。近くのカルチャーセンターのカラオケ教室に行っていました。そのときのことが、デイサービスのカラオケ教室で役にたっています。そうしたことを通して、私自身が人の役にたっていることを実感します。だって昔は、孫を保育園に送った後は、膝が痛くて毎日、近くの整形外科に通っていました。でも、今は整形外科に行かなくても大丈夫。自然と体が動いてしまうんです。

 

夫も、デイサービスに通っていますが、私がいると私に頼ってしまうので、違うところのデイサービスを利用しています。これまでは、夫には私の友だちしか友だちはいませんでしたが、今ではデイサービスでお友だちもできました。

 

もし、仕事がなかったらどうするんだろうなって思います

 

 

―ここには役割があって、人のつながりがあるんですね。

若林さん:そうです、ここにはそれがあります。理想ですね。

月曜日から金曜日まで8時半から午後3時まで働いて、土日は、東京に遊びにいくとき以外はピアノを弾いています。ピアノは高校までやっていましたが、それ以降はまったくやっていませんでした。家のピアノも処分しました。

 

でも、ここでは時間がたっぷりあるので、やる気が出てきて、今はピアノを楽しんでいます。高校の時のピアノのテキストが、たまたま出てきたので、それを持ってピアノの教室にも通っています。昔はピアノの練習は、やらされている感じがありましたが、ここではまったくそんなものはありません。今は毎日、弾きたいですね、楽しいから。

 

―暮らしの場所を移すことで、自分を実現しているんですね。

若林さん:5年前、ここに来た時の写真と今の私は全然違っています。今の方が元気ですね。

ここに来てからは動くのが苦痛じゃないんです。自然と体がうごくの。私は、どちらからといえば動かない人なんです。だけど、ここにいると自然に身体が動いちゃうんです、不思議に。

 

ここが実家になったんです

 

 

若林さん:ここには子どもや孫たちが来るんですよ。信じられないですよ。だって、年に二回、名古屋から孫たち三人を引き連れて、夏と年末年始に来るんですよ。私も一人で名古屋まで行きますけど、いちばんいいのは年末年始にみんなが酒田に来てくれることですね。

 

今は親と子で暮らしている場所は離れたけれど、私たちと子どもや孫たちとのつながりはまったく変わってないんです。ここが実家です。ここが、酒田が本当の実家になってしまったんです。こうしたことは、この未来創造館にいるから出来る事なんです。冬の酒田は寒くて、風が強いから飛行機が飛ばないこともあるけど、子どもたちはお餅つきに参加して、酒田の正月を楽みにやってくるんです。こんなうれしいことはないですね。

 

一人ひとりの暮らしを中心においたサポートの形―未来創造館

 

 

この特派員レポートにたびたび登場する未来創造館は、フロントサービスやレストラン、月40回以上のアクティビティから医療・介護サービスが用意された移住にも対応したコミュニティ型の賃貸マンションです。

 

そのルーツは、1997年に持ち家を改築して開設した認知症の方のためのグループホーム及びデイサービス『民間介護の家たくせい』をつくり、そこを地域のお茶の間にして地域の方々との交流の場にしたことにありました。

そこで掲げた理念は「赤ちゃんからお年寄りまで、障がいのある方もない方も共に胸襟を開いてふれあうまちづくり」だったそうです。

 

こうした今までの道のりをお話しいただくのは、酒田市で、どのような人でも暮らしやすいまちづくりを目的にしたボランティアサークルを立ち上げて以来、休むことなくさまざまな人と暮らしを支えてきたイデアルファーロ株式会社代表取締役会長の齋藤綠さん(写真右)と、特定非営利活動法人あらたの代表理事を務める渡部雅美さん(写真左)です。

 

一人ひとりの誰にも役割と活動がある暮らし

 

 

―その人の持っている良さ、本人さえ気づいていない良さを引き出す力が、ここにはありますが、それは、なぜ可能になるのでしょうか。

渡部さん:私たちは、自分自身が幸せでありたいし、同じようにここに暮らすみんなが一緒に幸せに暮らしていただきたいという気持ちがあるからでしょうね。

私たちが未来創造館を作ったときの、いちばんの根っこに置いたものは、人はすべて個人であって、この一人ひとりを大切にするということです。個人がここでどう暮らしていきたいか、どんな支援を受けて暮らしていきたいかを、一人ひとりが決めていくということを中心においています。

これは、私がスウェーデン短期留学で学んできたことです。スウェーデンでは一つのコミュニティのなかに医者がいたり、訪問介護があったりしますから、人は個人として自分の家に住み、必要な支援を受けて生活をしていけるのです。

 

―それは、まるっきりここの暮らしの形じゃないですか。

渡部さん:そうです。ここでは自分が今まで暮らしていたところの生活を、酒田でそのままできます。食事はレストランがありますから、ここで食べることもできれば、自分の部屋で作ることもできます。本人の自由にやっていただいています。それができるのは、ここが賃貸マンションだからです。

ここでは自由に、わがままに暮らしていけるんです。ここから自分の経営する会社に出勤している方もいますし。

 

齋藤さん:私たちは有料老人ホームなどの施設も持っています。そこでは一定のルールを持って生活をしていただくことになりますが、未来創造館は自由です。サービス付き高齢者向け住宅もありますが、ここはメディカル棟でターミナル期における、ホスピスの位置づけとなります。

今まで在宅支援で看取りも多く行なってきました。だから、ここでは心身の状態に応じた、安心できる暮らしが可能になっているのです。

 

今まで諦めていたこと、我慢していたことに取り組める安心が、ここにある

 

 

―ここは、どのような状態であっても、その人に対応できる人がいるんですね。

齋藤さん:そうです。ここは全世代型の地域包括ケアを行なっているのです。ここでは、入居している方にも役割を持っていただくようにお伝えしています。仕事に就いて頂いたり、ボランティアとして活躍してください、とお願いをしています。みなさん素晴らしい人柄や得意技をもっているのですから、それを活かしていただきたいのです。そうすると、その方が、また別の方を呼んでくるのです。そして、そうした方々の自己実現を図っていただくのです。ここはそれを実現できる場所なんです。だから、ここに暮らしている方は誇りを持って暮らしていると思いますよ。

 

ここに引っ越してきた方は、手紙を書かれるようになります。「すてきなところに引っ越したから遊びに来てね」と。そして、実際にお友だちや、その家族の方が訪ねてくるんです。本人と訪ねてきた方の写真をいっぱい持っている方もいます。

 

いちばんの変化は、ここに来ると皆さん、旅行に行ったり、趣味を始めたり、手術に踏み切ったりします。今までは面倒をみていた家族がいて、心配だわ、置いておけないわと思って我慢していたこと、諦めていたことが、ここでは出来ると思われるんですね。それで趣味を始めたり、手術に踏み切ったりするようです。

 

住み替えて、生き直す!

 

 

―ここは、どんな人でも元気にするノウハウがそろっているんですね。

齋藤さん:みなさん、優雅に、わがままに、幸せに生活がしたいと思っているはずです。

ここは、ただそれをするだけです。普通の生活とはいっても、ワクワクする楽しい生活です。わたしたちは、グループホームやサービス付き高齢者向け住宅をもっていますが、そのどの場所でも、皆さんが輝くステージを作っていくことに変わりはありません。

そのステージで、その人自身が主役として輝いていくようにしていくことができますし、私たちは求められればお手伝いをするだけなんです。

 

終末期の方だって輝くことはできます。私たちが関わる場所は、その人が輝くためのステージなんです。だから、その方のあるべき所に住み替えるという感覚で来ていただきたいんです。

 

取材を終えて

 

取材のなかで私は、看護専門学校の講義のなかで紹介するマズローの法則(欲求5段階説)を思い出していました。

これは心理学の代表的な理論で、人間の欲求はピラミッドのように5段階で構成されていて、一番下にあるのが生理的欲求で、次が安全の欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求と積みあがっていくと考えます。

 

具体的には、生理的欲求が満たされると、次の安全を欲求するように、人間は低次の欲求が満たされると、その一つ上の欲求をもつようになるとされています。この未来創造館では高齢になっても、5段階目の自己実現の欲求までが満たされるようになっているのが特徴のように思いました。最初に紹介した若林さんは、まさにこの未来創造館で自己実現を達成した方なのではないでしょうか。

 

このマズローは晩年、自己実現の上にもう一つ「自己超越の欲求」を加えています。これは、「社会をよくしたい」というような理念の実現を欲求することです。

私は、若林さんがデイサービスで活動をされることは、もしかしたら、この六つ目の欲求が原動力になっているのではないか、と推察しています。

 

(※本稿は2020年1月下旬に実施された取材をもとに作成されました。)

 


 

取材者プロフィール

 

 

ペンネーム:大仏ちゃん
所属単協名:千葉・松戸
プロフィール:現在66歳。市役所を60歳で定年退職してから大学教員へ。

その後、65歳の二度目の定年を機に大学院で健康寿命の延伸にかかわる要因とは何か? という研究を行なっています。

今のところ、そのカギは「経済活動」が最も重要な要因ではないかとにらんでいます。