第23回 老い支度を考える―ゆるやかな連絡会 「遺品整理で迷惑かけ無いために。『“負” 動産地獄』に陥らないために」

『老い支度を考える-ゆるやかな連絡会』は、老い支度に関心のある人々が集い、学び、話し合う場として、さまざまなテーマで勉強会やセミナーを開催しています。2019年8月10日は、日本初の遺品整理専門会社を設立して数多くの遺品とさまざまな遺族と関わってきた吉田太一さん(キーパーズ有限会社)から、「終活」のポイントを教えていただきました。

 

 

吉田太一 さん

 


目次

 

「神様みたい!」と言われて

 

2002年に、日本で初の遺品整理の専門会社を始めました。現在、全国の直営8店で年間2,000件ほどの遺品整理のお手伝いをしています。
この事業を始めたきっかけは、東京と横浜の二カ所に荷物を運んでほしいという依頼でした。一人暮らしだったお父さんの葬儀が終わり、娘さん二人が片付けを済ませてそれぞれの家に帰らなくちゃならないという状況でした。

 

私は当時、引越も整理もリサイクルセンターもやっていたので、「全部やりますよ」と言ったら、びっくりされました。「よかった」と大喜びされるので、誤解されていたら困るので、「お金、かかりますよ」と伝えたところ、「もちろん払いますよ」とおこられました。

 

あとで「全部やってくれる人が神様に見える」と言われました。「あと何日でできるか」「いつ帰れるか」と気を揉んでいたところ、全部任せて帰れることの大喜びだったんですね。
当時は「遺品整理」といえば意味は通じても、普通に使われる言葉ではありませんでした。専門業者はなかったので、やってみることにしました。はじめは年間10件ほどしか依頼されませんでしたが、「神様に見える」と言われたことを思い出し、「必要な人に伝われば、きっと喜んでもらえる」と信じて踏ん張りました。

 

 

遺産整理は、誰かに頼むしかない

 

 

ほとんどの人は「遺品整理を人に頼むのは申し訳ない」と感じています。でも、どうやったって、死後の自分で整理はできないですから、誰かにやってもらうのは当然です。つまり、誰もが遺品整理を誰かにやってもらわざるをえない。私は事業として、それを手伝っているのだと考えています。

 

遺品というのは、生活していたときに持っていたもの全てです。「形見」というのは、引き取られてはじめて「形見」。「形見」にならなければすべてゴミになります。
整理するにはお金がかかります。ものをたくさん持っている人は、遺品整理の費用も残しておかなければ迷惑がかかります。 ペットを飼っている人は、引き取ってもらう人を決めてありますか? 遺族がスムーズに遺品整理ができるよう、何をしておくべきなのかしっかり考え、どうしてほしいか伝えておくことが大切です。

 

 

遺族の負担を軽くするためにすべきこと

 

 

遺族に大きな負担がかかるケースの筆頭は、家が「ゴミ屋敷」になっている場合です。一人暮らしで片付けが面倒になると、汚くなって人を呼べなくなり、どんどんゴミが溜まってい来ます。大きな家では400万円必要だった事例もあります。

 

もう一つ、遺族に大きな負担をかけることになるケースは、ご近所付き合いをしていない人です。亡くなっても、しばらく発見されないからです。2~3日で見つかればいいですが、1週間も経つと家屋も傷み、リフォーム費用もかさみ、賃貸物件だと「心理的瑕疵物件」になって多額の請求をされることもあります。
だから、近所の仲のいい人同士で鍵を預け合うなどしておくのが賢明です。今は一人暮らしが多く、これからは、「両親が死んだら、完全に一人です」という身内のいない人が増えていきます。特におひとり様は、自分で段取りしておかなくてはなりません。

 

これから増える「負動産地獄」

 

さらに注意しておきたいのは、「負動産地獄」です。プラスの財産だと思っていた「不動産」が「負動産」になるリスクです。

 

例えば、都心から1時間半くらいの郊外でマンションを買い、30数年間ローンを払いつづけて完済したお父さんが亡くなって、息子さんが相続しました。古いマンションなので、売ることも貸すこともできません。相続した息子さんは、固定資産税や修繕費積立金など合わせて年間30万円を払いつづけなければなりません。10年すれば、300万円にも膨らみます。
不動産を持っているのなら、いくらで売れるのか、あるいは売れないのか、前もって調べておくことをお勧めします。不動産屋は、売れば3%+6万円+税を取りますが、調べてもらうのはタダです。「所有」という安心感から放置していると思わぬ「負動産」になってしまうことを、肝に銘じておいてください。

 

さらに知っておきたいのは、相続放棄はプラスの遺産もマイナスの遺産も同時にしないといけないことです。仮に現金200万円が遺産にあっても、税や管理費で雪だるま式に何百万もの出費に化けていく「負動産」があったら、むしろ現金も合わせて全て放棄したほうが賢明です。
昔の常識と現在の状況は違のです。ぜひ知っておいてください。

 

 

「好き放題に生きた」と思われるのが幸せ

 

 

全国の200人ほどの一人暮らしの方から、相談を受けてきました。「業者さんなら割り切って相談できる。自分が死んだら、頼めないでしょ」と言われます。でも、遺産整理の予約は受け付けません。30年先になるかもしれないですから、そんな先のことは責任が取れません。

 

人はいつ死ぬかわかりません。でも、人には知恵があり、助け合うことができて、人に頼むことができます。どうしてほしいか、ちゃんと周囲に伝えておくことが何より大切です。
たくさんの方々の遺品と遺族に接してきて、財産を余らせないのが賢明な生き方ではないかと思うようになりました。

 

90歳になって「もっと生きたい」という人は少ないです。90歳までに持ち金の3分の2は使いきり、長く生きたときのために3分の1だけ残しておけばいいと思います。
例えば、90歳までの旅行計画を立てるのもいいです。ひとつひとつ達成したら、誰かに話を聞いてもらう。話せば楽しくなる。そうしていれば、一人ぼっちになることもありません。
やりたいことをやっていれば、死んだ翌日から「あれはあれでよかった。好き放題に生きた」と思ってもらえます。「孤立死して気の毒だった。疎遠にして申し訳なかった」などと悲嘆されるより、幸せだと思いませんか?

 

これまで遺品整理の仕事をしながら、たくさんの生き方、たくさんの家族のあり方があることを教わってきました。みなさんがこれからを生きるヒントになれば幸いです。

 

セミナーに参加された方からの感想です。
・死ぬって大変。考えないといけないことがたくさん。
・「不動産⇒負動産」はうすうす知っていましたが、具体的に話して下さったのでよくわかりました。
・正直、こんなに大変でお金もかかるとは想像していなかったので、なんとかしなくてはと思いました。
・老い支度、さっそく実行に移すべく動き出さなくてはと思いました。
・遺品整理は気になっていたので、何をすべきか頭が整理されてよかった。結論は、プロに任すべきだと思った。
・たくさんの気づきをいただきました。まず、今住んでいるマンションの現状を調べます。

 

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