高齢者住宅の選び方〜新聞記事に見る失敗事例を考える〜

(2018.4.25開催「第11回 老い支度を考える―ゆるやかな連絡会」より)

 

「老い支度を考える―ゆるやかな連絡会」の参加者から要望が一番多いテーマは「高齢者住宅」についてです。過去に開催されたセミナーをまとめましたので、参考にしてください。

 

講師:米沢なな子さん
(一般社団法人コミュニティネットワーク協会 高齢者住宅情報センター大阪センター長)

 

米沢さんは、20年以上にわたって多くの高齢者住宅・施設を実際に訪れ、たくさんの方々の相談を受け、事業者に意見を伝えてきました。セミナーではリアリティあふれる実例を盛りだくさんに紹介しながら、「高齢者住宅の選び方」について解説しました。

 

自分自身の身に引きつけられる内容は、自分や親の「終の住処」を考えるうえで、より良い選択を叶える参考になります。

 

 

目次

準備は、ともかく元気なうちに!

 

高齢者住宅については、誤解している人がたくさんいます。
「入るとボケる」
「いじめがある」
「自由がない」……などと思い込んでいる人が多いのです。

だから「入りたくない」「でも、10年後は不安」といった拒絶感と否定感が混じり合った複雑な気持ちを抱いている人がほとんどです。

 

そして「子どもに迷惑をかけたくない」と言う人がとても多いです。でも、ほんとうに迷惑をかけないために何をすべきか考えて行動している人は、依然としてわずかしかいません。

 

ちょっと、想像してみてください。

自宅に暮らせないギリギリの状態になったら、自宅を貸すとか売るとか、施設を選んで引っ越すとか、自分でできますか? 施設の見学だって1日がかりです。これからの人生では今日が一番若いのに、想像するだけでしんどいですよね?ましてやギリギリの状態では、絶対にできるはずがありませんよね。
結局、一番多いパターンは、ギリギリになってから子どもや周りの人が介護施設を見つけてきて「入れられる」ケースです。
いったい、それでいいのでしょうか? それがあなたらしい選択と言えるでしょうか?

 

私がみなさんに「自分で選んで早めに行動すること」をお勧めするのは、最期まで「自分らしく生きる」ためなのです。
相談にいらっしゃる方のほとんどは、「今の自宅が大好き」と言いますが、家の老朽化、駅が遠くて不便、坂が多くて買い物が不便、庭の手入れが大変など、先々を考えると不安を抱いている人も多いです。

 

子どもと同居してみたけれど上手くいかないという相談や、中年を過ぎた子どもがパラサイトしていて不安を抱えているという相談も、少なくありません。親を入居させたが、無理に入れたので罪悪感がぬぐえないというケースも目に付きます。

 

結局、これからの人生をどう生きるかが問題の核心です。高齢者住宅の情報を提供するだけでは、不十分なのです。一人ひとりが考え、自分の答えを見つけていってほしいと思います。

 

 

自分らしく生き切るために決めておくべきこと

 

最近は「終活」の認識が広まって、生前整理をする人も多くなってきました。息子さんに「オカンの思い出、俺のゴミ」と言われたという人がいました。耳が痛いですよね。

 

相続のことも、しっかりと考えておきたい問題です。統計で見ると、預貯金等の財産が2,000~3,000万円程度の人の一番争いが多いそうです。2億円とか3億円になると、もめないんですね。だから「ややこしくなりそうだな」と思う人は、公証役場に行って公正証書として遺言を作っておくのが賢明です。

 

「おひとりさま」の方は、いずれは後見人が必要になるので、元気なうちから調べたり相談したりして、手遅れにならないうちに手続きを進めておくべきです。

 

看取りのことも考えておくべきことのひとつです。延命治療をしたくないなら、きちんと書面にしておくとか、かかりつけ医を子どもに話しておくと安心です。
葬儀はどんな形にしてほしいのか、来てほしい人、来てほしくない人などもしっかり書いて、子どもや周囲の人に伝えておきたいものです。無縁仏にならないために、永代供養の選択をしたり、墓じまいをする人も増えています。死んだ後のことまで、身の振り方を考えておく時代なのです。

 

こうした諸々のことは、「エンディングノート」にまとめながら整理しておくことをお勧めします。特に「子どもに迷惑をかけたくない」と思うなら、自分の意思を表明しておくことが基本です。昔は「死んだ後のことを話すなんて縁起が悪い」などと言われましたが、今では医者も積極的に死を語る時代です。

家族が集まるお盆でもお正月でも、しっかりと話しておきましょう。

 

 

住み替えるなら、80歳までに

 

統計を見ると、高齢者の要介護認定率は80~84歳で約3割、85歳を超えると増加していきます。
つまり80歳までは元気な人が多いのです。だから、介護を視野に入れた住み替えは、80歳までに実行しておくのが賢明だということです。

 

 

誰もが一番心配するのは、介護です。

 

知っておきたいことは、現在の介護保険は家族のための制度で、「おひとりさま」のためには設計されていないことです。デイサービスやショートステイの利用だけでは、重度の障害や認知症になった「おひとりさま」の自宅暮らしが困難なことは、容易に想像できます。24時間対応型のサービスはほとんどなく、夜間は介護保険ではカバーされません。もちろんお金がたくさんあれば自費で家政婦さんを交代で頼むこともできますが、多くの人にとっては現実的ではありません。

 

要介護になっても一人暮らしを続けるには、子どもなどのキーパーソンだけでなく、理解のある介護事業所と家庭医の存在も不可欠です。そして生活費以外の介護費が優に月20万円はかかってきます。それらの条件をクリアできず、「施設の方が安いし安心」という判断になるのが一般的なのです。

 

全国的に介護施設は増えているので、選択肢は多くなってきています。とはいえ、今の自宅の近くか、子どもの住まいの近くで選ぶケースがほとんどです。
元気なうちに高齢者住宅に入居する場合は補助金がないので、全て自費でまかなわなければなりません。だから決断がつけられず、タイミングを逃す人が多数派です。元気なうちは子どもや周囲に反対されることも多いのですが、迷惑が最小限で済むので結果的に感謝されます。

 

2017年の最多死亡時年齢をご存知ですか?女性は、なんと93歳なんですよ。2年前は91歳でしたから、これからはもっと高齢になっていくことが予想されます。お金の計算も、生き方も、真剣に考えなければいけません。

 

 

多様なタイプがある高齢者住宅

 

「高齢者住宅」と一言でいっても、多様なタイプがあります。

カテゴリー分けすると、元気なうちに入る「自立の方向け」としては住宅と福祉施設があり、「要介護の方向け」としては住宅、福祉施設、医療施設があります。

 

元気なうちに入居する「一般居室」のある 「有料老人ホーム」や「サービス付き高齢者向け住宅」は、いずれも普通のマンションとほとんど同じです。

違いは、緊急通報ボタンが付いていたり、トイレの前などにセンサーが付いていて安否確認があったりする点です。介護型と違ってボタンを押さなければ誰も人は来ません。門限もありません。今と同じ自由な生活ができます。

 

一方、要介護になってから入居する「介護居室」は、緊急通報ボタンが付いているのはもちろん、24時間の見守りがあり、必要に応じてオムツ交換や薬の管理もしてくれます。居室は13 m²以上と決められていて、浴室やキッチンは付いていない狭い部屋がほとんどです。「病室みたい」という印象が強いのは、こうした「介護居室」です。かなり高齢で、弱りかけた人が入居するのが前提です。

 

「サービス付き高齢者向け住宅」の登録は2011年から始まりましたが、本来の住宅ではなく、学生向けのワンルームよりも狭い18 m² 程度の介護居室物件が多くなっています。

 

「高齢者向け分譲マンション」も出てきました。食事の提供や緊急時の対応などのサービスや、フィットネスやレクリエーションの施設が付いていますが、最期まで看てくれるわけではなく、重度の要介護になった場合あらためて介護付きの施設に転居する必要が出てくるので、その場合の対処や予算も考えておかなければなりません。

 

 

住宅供給公社、都営・県営などの「シルバーハウジング」は、バリアフリーの賃貸住宅で、所得によって賃料負担も変わります。緊急通報ボタンは付いていますが、食事サービスはなく、重度になると住みつづけるのは厳しいです。年金のない人や預貯金のない人には人気です。

 

認知症になっても身体はそこそこ元気な人たちのための「グループホーム」もあります。家庭的な雰囲気で運営されている施設が多いですが、車椅子が必要になると転居しなくてはならない施設もあります。

 

低所得の高齢者のための福祉施設としては、軽費老人ホームの「ケアハウス」もあり ます。基本は元気な人向けで、訪問介護も使えるとはいえ、重度になると併設されている 「特別養護老人ホーム」に入ることになるのが一般的です。

 

福祉施設の「特別養護老人ホーム」は全国に現在約1万件あり、3割は個室です。事業者の理念によっては快適な施設もあり、一般的に地方だと価格も手頃です。施設によっては200人待ち、300人待ちとも言われます。
国は要介護4~5の重度の高齢者向けの「老人病院」は廃止して「介護医療院」に転換していく方針です。ただ寝かせておくだけの施設よりも、手厚く介護できるようにする意向です。

 

また、医療法人が運営する「介護老人保健施設」は、リハビリを行う施設です。例えば、85歳くらいの高齢者が転んで大腿骨骨折で入院した場合、退院するとここで3か月ほどリハビリをして、帰れる状態まで回復したら自宅に戻り、無理な状態なら子どもが走り回って老人ホームを探して入居させるというパターンになります。私たちの情報センターには、このような状況で相談に見えるケースがとても多いです。

 

 

建物で見る居室タイプ

 

有料老人ホームは、2000年に介護保険がスタートしてから年々増えています。それ以前は毎月40~50万円かかるのが一般的で、富裕層じゃなければなかなか入れませんでしたが、今は介護保険で1割負担(収入によっては2~3割負担も)になっているので、厚生年金の人なら入居できる価格になりました。

ただし現状では、「介護居室」の物件が多く、自立向けの一般居室の方が圧倒的に少ないです。元気な高齢者が安心して暮らせる物件があまりないのが現状です。
建物と居室配置で分類すると、4タイプに分けることができます。

 

A:自立型居室のみの建物
B:自立型と介護型を階層で分けている建物
C:自立型と介護型が混在する建物
D:介護型のみの建物
です。

 

 

Bタイプだと、元気な人が要介護になっても大丈夫ですし、夫婦の片方が要介護になっても安心なので、とてもいい仕組みですが、共有スペースがゴージャスで超高級な物件が多いです。自立で入っても最期まで安心ですが、入居費用も月額利用料も高い施設が目立ちます。

 

Cタイプのように自立型と介護型が同じ建物にあると、元気な人たちが重度の要介護の人を食堂などで見かけて気が滅入るという話も聞かれます。

 

食事については、別の場所でまとめて作って冷凍したものを解凍するところと、その場で調理しているところがあります。細やかなサービスには、人件費がかかりますから割高になるのは避けられません。

 

こうした従来の「一般居室」や「介護居室」 には分類できない試みも注目されています。
居室にキッチンやお風呂が付いていてしかも介護付きというタイプ、あるいは公社の団地の空き室をサービス付き高齢者向け住宅にリフォームして安否確認やコミュニティづくりの仕組みが考えられているタイプなどです。

 

また、高齢者や障がい者と家族や学生が共生する街づくり、空家を活用した多世代交流拠点など、これまでの発想を超えた試行錯誤も、数は少ないですが各地で始まっています。

 

 

トラブルを避けるために

 

多様な「高齢者住宅」がどんどん増えてきた近年、トラブルも少なくありません。トラブル事例の情報を知ることは、選ぶときに参考になります。チェックしておきましょう。

 

自立して生活できる高齢者なのに、介護型に入居してしまって生活が合わず、退去しようとしたけれどクーリングオフ*が適応されずに初期償却されてしまったというケースがありました。ミスマッチが起こらないよう、事前に詳細を確認してしっかりと判断したいものです。
「こんな費用は聞いていなかった」と家族からクレームが出るケースも多いです。

 

1階に訪問介護事務所が入っている高齢者住宅も多いのですが、実際には受けていない介護サービスを受けたことになったという不正請求のトラブルも見受けられます。あるいは、他の訪問介護事務所のサービスを選んだら、意地悪されたという相談もありました。

 

運営会社の株主が変わることも少なくありませんが、ちゃんとした会社はちゃんとした会社に売られますから、入居率の高い優良な施設を選べば心配いりません。
施設選びで重要なのは、業者の理念や看取りの態勢とともに入居率をしっかり確認しておくことです。医療法人が付いている施設は、必要以上に医療に頼る傾向があったり、どこか生活感がなくて病院のようだったりする傾向があります。対応の規準や雰囲気が自分にあっているのかなど細かく確認しておくこともお忘れなく。

 

*クーリングオフ
有料老人ホームなど入居した際に支払った一時金に対し、90日以内の解約であれば返還される制度(入居した期間の家賃などは支払う場合もあります)。

 

 

高齢者住宅選びのポイント

 

①早めに生活設計を立てる。

無理のない資金計画が必要ですが、予算を低くしすぎると選択肢が狭くなります。「子どもには迷惑をかけたくない」「子どもにお金は残したい」という思いのある方が多いですが、お金を残すことより、上手に使うことを考えるのが賢明だと思います。

 

②入居のタイミング

心身ともに元気でなければ引っ越しはできません。早めに住み替えて環境に慣れ、これまでの生活を続けましょう。介護施設に入れられる場合も、少しでも元気な方が施設側が入居者の人となりについて理解した対応ができます。

 

③事業者の理念

事業者が健全経営で、経営者がしっかりとした理念を持っている施設を選びましょう。建物は古くても、経験の蓄積があれば自ずと入居率の高さに表れます。

 

④看取りの体制(医療連携)

そこで最期まで看てもらえるのか、どこで最期を迎えるのが良いのか選択肢を探っておきましょう。どのように最期を迎えたいか、主治医や家族とも話し合っておきましょう。

 

⑤高齢者住宅の仕組みで選ぶ

種類や名称にとらわれず、仕組みやサービス内容で選びましょう。手厚いサービス体制には、費用がかかることは、理解しておきましょう。

 

 

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